50年後の伝習者に託す夢(ハナガガシ ドングリ採集)
月刊「武道」 平成26(2014)年2月号
宝蔵院流高田派槍術 伝習生 森一彦

宮崎県日向市の福瀬神社の森でドングリの採集をする一箭順三宗家(右端)はじめ門人
 古武道各流派に共通する課題と推察いたしますが、宝蔵院流槍術においても安定的な武具の調達は喫緊の課題です。
 弊流派では鎌槍(2.7m)、素槍(3.6m)の樫製稽古槍を使用しています。しかし、無節・長尺の樫材調達は容易ではありません。槍柄材として硬さとしなやかさを備えた白樫は伐採が進み、国内では既に枯渇しているものと推測されます。
 弊流派でも日々の稽古において槍の破損は避けられず、傷が入るたびに補修を繰り返し、しかも伝習者の増加のため補充が追いつくことはありません。過去には外材やカーボン素材で稽古槍を制作したこともありますが、耐久性やしなやかさという面ではやはり日本古来の白樫材には敵いませんでした。
 かかる状況の中、一箭順三宗家が発案されたのは、樫の実(ドングリ)を拾って育て、自分たちで植林するという構想です。樫の木が槍柄材として使用できる太さにまで生育するにはおよそ50年の時間を要する長期計画となります。
 槍柄材として江戸幕府将軍家に直納されていたのは、優れた堅さと弾力性を持ち、真っ直ぐ20m以上に成長する天草の葉長樫(ハナガガシ)という種類でした。江戸時代に風靡した天草ブランドの葉長樫は、現在では福連木(ふくれぎ)国有林(熊本県天草市)に僅かに残るのみとなり、希少種に指定され伐採等はできません。
 しかし、大分・宮崎県の鎮守の森にそれぞれ葉長樫巨樹林の存在が判明しました。11月24日、宗家以下採集班8名が宮崎県日向市/福瀬神社と大分県佐伯市/堅田郷八幡宮を訪れ、ドングリを採集してきました。
 当面は継続してドングリ採集と育苗に専念し、2-3年後に奈良市東部地域の山林に定植する予定です。
 植林は枝払いや下草刈りなど、50年以上にも亙る息の長い作業が必要となります。450年以上の歴史を有する弊流派を次世代の伝習者に確実に引き継いでいくためにも、私ども宝蔵院流槍術一門は平素の稽古とともに、稽古槍用材確保のための植林計画を継続し、日本古武道の普及発展に精進してまいる所存であります。


大分県佐伯市堅田郷八幡宮でも採集

ドングリを採集する門人





稽古槍柄用材 葉長樫育成の歴史
2015. 3.28  葉長樫(ハナガガシ)ドングリ特製竹筒ポットへの播種作業
2014.11.24  稽古槍柄用材:葉長樫(ハナガガシ)ドングリ採集
2014. 6.24  葉長樫(ハナガガシ)ドングリ発芽特製竹筒ポットへの移植作業
2014. 2. 1  月刊「武道」掲載:50年後の伝習者に託す夢(ハナガガシ ドングリ採集)
2013.11.24  稽古槍柄用材:葉長樫(ハナガガシ)ドングリ採集

2014. 2. 1